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私のへなちょこ人生【第七話】プロフェッショナル

 

私のへなちょこ人生
第七話
プロフェッショナル

 

学校へ行けなくなってだいぶ長い時間が経った頃のこと。ふと、変な感覚を持ち始めたのをよく覚えている。なんだか妙に濃度の濃いとろりとした物質が、私の心にまとわりついてきて、しまいには覆いつくすようなイメージ。つまり私の中で、学校生活に馴染むことができずに気おくれしてしまい、登校することができない苦しさよりも、24時間自宅で生活するようになって、「不登校で引きこもっている娘」を見る母親の眼が、私の苦しさのメインになってきたのだ。

 

この違和感を持ったのは、この時が初めてではなかった。思い出せないくらい昔の、私が幼い頃からナイショにしていた想い。誰かや何かに対して、辛くて息ができなくなりそうなのは私なのに、その状態でいる私を見る母親の表情は、私が成長し、つまづいて立ち止まる内容が変わっていくのと同時に、しかめっ面度合いがバージョンアップされていった。些細なことだったのだろうけど、私にとっては世界一温かくてやさしい、慰めの言葉をかけてもらいたいという期待を持つよりも、「お母さんが困った顔をしてる。お母さんに嫌われたくない」気持ちが勝って、今よりも小さくて柔らかかっただろう私の心は、素直な本当の気持ちを隠すことが上手になった。その腕前はプロ並みにまで達したようで、よっぽどのことが無い限り、母親には本当の気持ちがバレなくなっていった。

 

私が学校へ行けなくなったタイミングで、テレビをはじめとしたメディアで「引きこもり」という言葉が包み隠さずに表現され、その詳細内容を伝えるようになってきたように覚えている。「引きこもり」の実態を伝えていた年齢層は、当時の私の年齢を基準にして、幼い小学校低学年生から、社会人・大人と言われる年代まで。それを照らし合わせると私は「不登校」のカテゴリーに該当した。

 

私が心に、とろりとした物質がまとわりついてきたことをはっきりと自覚したのは、自分の苦しみが「不登校」の状況にいることよりも、母親が「引きこもり」を特集したテレビ番組を熱心に視聴したり、心理学や「引きこもり」の経験談などが掲載されているだろう著書を、まるで私が元に戻るための『参考書』としてむさぼり読んでいる姿や、100歩譲って気のせいだったかもしれないけど、考え込んだり物思いにふけっている母親の表情を視界に入れたくない、自分の脳内から消してしまいたいと思うようになった時期だった。この時は現実に起こっていることばかりに気持ちが向いていて、その現実を引き起こす根本にまで目を向ける心の余裕が誰にもなかったのだと思う。

 

第八話につづく…

 

 

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